【イスラエル】前編・村上春樹のエルサレム賞受賞演説「壁と卵」をエルサレムで考える
村上春樹はエルサレム賞を受賞した2009年、イスラエルのエルサレムで「壁と卵」のメタファーを使った受賞演説を行いました。せっかくエルサレムにいるので、演説とパレスチナ問題について考えてみます。
パレスチナ問題とは なるべくわかりやすく
まずはパレスチナ問題について簡単にまとめます。パレスチナ問題とは、イスラエル人(ユダヤ人)とパレスチナ人(アラブ人)との紛争のことです。両者ともイスラエル国の領土に住んでおり、イスラエル人が住むイスラエル側(エルサレムなど)と、パレスチナ人が住むパレスチナ自治区(ガザ地区とヨルダン川西岸地区)に分かれています。どうして領土を争っているかというと、英国が第一次世界大戦時に双方に「英国を応援してくれたら、領土をあげるよ」と約束したからで、「二枚舌外交」といわれています。
その後、第二次世界大戦後の1948年に、英国に問題を丸投げされた国連が分割案に同意したイスラエル人がイスラエルを建国をします。パレスチナ人にとってかなり不利な分割だったため、周辺国が加わり、中東戦争が勃発します。
米国が支援するイスラエル側は肥沃な土地で資金も豊富なため、パレスチナ自治区に侵攻したり、分断する壁を作ったり、時には「戦争犯罪」と国際社会から批判されています。
壁は両者を分断する形で建設されており、国連で合意されたラインよりも、パレスチナ自治区の領土の内側に建設され、パレスチナ人は自由に壁を越えて行き来することができません。
外務省の安全情報地図
僕ら旅行者が一般的に渡航できるのはイスラエル側で、外務省の危険情報ではレベル4のうち1の黄色。パレスチナ自治区はほとんどがレベル3「渡航はやめてください」と濃いオレンジが塗られています。
村上春樹のエルサレム賞受賞は、イスラエル側の軍がガザ地区に侵攻した直後です。そういった背景があり、イスラエル側が贈るエルサレム賞を受賞することは、イスラエル側の行動を肯定的にとらえるメッセージにならないか、と受賞を受けるか断るか悩んだそうです。演説では小説家は言われたことと反対のことをしたくなる性分といい「欠席するよりもこの場所に来ることを選んだ。沈黙するよりも話すことを選んだ」と理由を述べています。
村上春樹演説 壁と卵演説について
核心部分である「壁と卵」の部分を紹介します。
「高くて硬い壁と、壁にぶつかって割れてしまう卵があるときには、私は常に卵の側に立つ」
「壁がどんなに正しかろうとも、その卵がどんな間違っていようとも、私の立ち位置は常に卵の側にあります」
演説ではこの比喩について直接的な見方を提示します。
壁=爆弾、戦車、ミサイル、白リン弾
卵=これらに撃たれ、焼かれ、つぶされた非戦闘市民
これはイスラエル側を批判し、パレスチナ自治区の立場に立っていると表明しているともとれます。
しかし村上春樹が演説で言いたいのは、そんな単純なことでなく、もっと問題は根深いものだということをいいたいのだと思います。
演説でもう一つの見方を紹介します。
「皆それぞれ一つの卵である。そして程度の差があるが、硬い壁に直面している。壁の名前はシステム。システムは私たちを守ってくれるが、時には意思を持ち、殺しはじめ、他者を殺さしめる」
壁=システム
ここでいうシステムとは何を意味するのか。この演説では詳しくいっていないので、ちょうどこの年に発表された村上春樹の長編小説「1Q84」とジョージ・オーウェルの「1984年」を絡めて考えようと思います。
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