元新聞記者の「世界道中、旅の途中」

元 新聞記者 世界一周旅記録

MENU

【エチオピア】ジンカ。唇に皿をはめ込む孤高の民族ムルシ族に会いたくて

 例えばミャンマーの化粧の一つである「タナカ」は、特定の文化感覚に基づく美しさだと思う。欧米の美しさに慣れた僕らにとってみれば、ほっぺに白粉をべたっと塗る化粧はちょっと理解できない美しさだ。下唇に大きな穴を開けて皿をはめ込んだ迫力の民族、ムルシ族はそういった美しさの最たるものだと思う。

 

ムルシ族に会うのは大変

 どうしてもムルシ族を見たかった。暴動により、非常事態宣言が出たエチオピアでは、公共バスが所々運行しておらず、バス移動は危険との情報もあってエチオピアーケニア間は飛行機を使う人もいた。

f:id:shosho19890418:20161022220843j:plain


 ムルシ族を見るには、少数民族が点在する南部のジンカを拠点とする。公共バスやミニバスを乗り継いで行かなければならない。首都のアディスアベバから公共バスで到着したアワッサで一泊、ミニバスで向かったアルバミンチで一泊、アルバミンチからミニバスで7時間ほどでようやくジンカに到着した。

f:id:shosho19890418:20161022220729j:plain

 

ジンカに着いたが、、、

 そこからも障害が多かった。当初はローカルバスでムルシ族の村まで行く計画だった。「ある民族が政府と紛争中で危険なため村には行けない」「道路が封鎖中」「バスは運行しているが、旅行者は使えない」。それぞれ違うことを言う。
 ムルシ族は銃を持っているし、他民族と殺しあったりもする。「殺すと英雄ともてはやされる」と教えてくれた地元の住民もいた。その人は「とても非文明的な考えだ」と付け加えた。

f:id:shosho19890418:20161022225510j:plain

 

自力でムルシの村へ

 ツアーで行ってもよかったが、一緒にいる中国人3人とシェアしても、運転手とガイド、セキュリティーガードを雇うため、一人1万円近く掛かり高額な上、できれば少しでも日常に近い形で会いたいと思い、自力で行くことにした。

 

 朝6時発のバスに向かったが、道路が封鎖中とのこと。復旧は明日になるかもしれないし、もっと先かもしれないという。バス乗り場で途方に暮れていると、子どもが話しかけてきた。「ジンカのマーケットにムルシは来ると思う」。子どもガイド。仲良くなって、ジンカから一番近くに住んでいるアリ族、ジンカマーケットの案内をお願いすることにした。300ブル。11歳アベ。

f:id:shosho19890418:20161022225520j:plain

 

まずアリ族 

 ムルシ族はマーケットに来るのだろうか。心配をひとまず棚上げにして、アリ族の村を訪ねる。ローカルバスで30分、陶器の作る風景を見せてもらい、塩を入れたコーヒーをいただく。はちみつジュースも飲む。コーヒーとか全部含めて入村料150ブル。

f:id:shosho19890418:20161022224246j:plain

 

ムルシ族を探せ

 ジンカに戻り、ムルシ族を探す。少数民族はすぐにそれと分かる。アベは見ただけで、どの民族か分かる。10数の少数民族が周辺にいて、エキゾチックな姿を見るのは楽しかった。やがて、アベがムルシ族を見つけた。

f:id:shosho19890418:20161022223603j:plain

 

 だらんと紐のような唇がぶら下がっている。誰も皿を付けていない。しぐさで皿を付けてほしい、とお願いするが、村にしかないらしい。日常生活では皿を付けないのだ。やはりツアーで行くしかないのか。皿をはめた姿を見られず、アベとはここでお別れ。

f:id:shosho19890418:20161022224033j:plain

 

再チャレンジ

 どうしても皿を付けた姿を見たかった僕はもう一度、マーケットを訪れた。ムルシ族に接触を試みる。すると怪しい男が割り込んできた。「ムルシの言葉を話せるから通訳してやる」。後からお金を要求してくる輩だ。こういうのとは後々トラブルになる可能性が高いけど、上手く利用すると、事がうまく運んだりする。お願いすることにした。

 通訳と10数人のムルシ族が話し合った後、皿を準備でき、その姿をみせてくれるとのことだ。一枚に付き、10ブルでどうか、と値段を持ちかけてきた。

f:id:shosho19890418:20161022224324j:plain

 

ムルシ族は撮影有料

 そう。ムルシ族を撮影させてもらうには、お金を支払う必要があるのだ。それはある程度システム化されていて、入村料250ブルと一枚につき大人5ブル子どもは3ブルくらいが相場となっている。ほかのブログでも、ムルシがひたすらお金を要求してくる様子が紹介されている。

 

会ってもがっかり?

 これは考えさせられる話になってくる。ムルシ族というエキゾチックな文化見学を目的に観光客は訪れるが「お金をくれ」というとっても現在的な資本主義の攻撃にかなりガクッとくるという。

 しかし「萎えた」という人は本当に自分勝手というものだ。自分たちは資本主義経済にどっぷり浸かってなんでもお金で価値を換算しておきながら、ムルシ族らにはそういう生活をせずに非文明的な生活を求める。経済の豊かな日本から、物価の安い国で優雅に観光すること自体、明らかに資本主義にどっぷり浸かった行為なのに。今の状況は彼らの文化の維持にとって悪影響かもしれないが、彼らに選択の権利はある。

 

 会ってもお金お金といわれて、一つも彼らとコミュニケーションがとれなくて終わりかもしれない。もともとそういう思いはあったけど、少しでも触れてみたかった。数分経って皿が用意されると、女性の一人が唇を片手でひっぱりぐわっと伸ばして、皿をはめ込んだ。

f:id:shosho19890418:20161022223611j:plain

 

念願のムルシ族

 とうとう念願の姿を見ることができた。舌をべろんと出した姿を美しいのかは僕には正直理解できなかった。まぬけにも見える。撮影させてほしい人を指定して何枚か撮らせてもらった。もう十分だ、と通訳者に伝えると、なにやらムルシのリーダー格の男ともめ始めた。僕らを十数人のムルシが取り囲む。野次馬も増え始めた。何かを言った野次馬に、ムルシのボスが怒り、追いかけて大きな石を投げるしぐさをした。すごい迫力だった。

 通訳に促され、逃げるようにその場を後にした。「お金が足りない」と言っていたそうだ。なかなか大変な道のりだったな。

 

 皿を付ける風習は衛生的にもよくないらしい、彼らの考えも含めてそれも非文明的だという人がいた。しかしそれも簡単なことじゃない。高度資本主義とグローバル化の波に激しく翻弄されながらも、そういうもので測れない孤高の美しさが残っているのに驚くとともにうれしく思った。

f:id:shosho19890418:20161022224847j:plain 

 旅メモ

 半日ムルシ族ツアーの相場。車、ガイド、通訳で250ドル。後はセキュリティガード(100ブル)、国立公園入場料(250ブル)、入村料(250ブル)などが掛かる。状況によっては、安いガイド一人を雇ってローカルバスで村まで行くのがベストだと思う。

 

▼民族、風習▼